勉強する人としない人

日本人は勤勉か

 書店に行くと、「自己啓発」や「ビジネス書」といったコーナーがあり、多くの人が熱心に目を通している姿を目にします。また、カフェなどでふと隣の席を見ると、社会人と思われる年齢の人が難しそうな本を広げて一生懸命勉強していることもあります。こうしてみると、日本人は他の国の人々に比べて勤勉な国民であるように感じますが、いろいろ調べてみると、実際はそうとも言い切れないようです。
 大学経営・政策研究センターによる「全国大学生調査」によると、日本人の大学生が1週間で(授業以外に)勉強する時間は、最も多いのが「1~5時間」で57%、次いで「6~10時間」が18%、「0時間」が10%程度であり、全体の約85%が1週間に10時間以下の勉強時間だそうです。これに対してアメリカの大学生は、全く勉強しない人はほとんどいません。また、日本では大多数だった「10時間以下」という回答も約40%なので、半分以上の学生が週に11時間以上勉強をしていることが分かります。日本人の大学生は、あまり勤勉とは言えないようです。
 勉強していないのは大学生だけではありません。総務省が実施した「社会生活基本統計」という調査によると、社会人が1日に学習や自己啓発といった勉強に費やすのは、平均でたった6分だそうです。海外では30歳以上の成人であっても大学の公開講座を受講するなど、大人になっても勉強している人が多いのに対して、日本では勉強しない社会人が大多数であるということです。

学習意欲の差をチャンスと捉える

 学生でも大人でも、あまり勉強しない人が増えているという調査結果と、書店などで真面目な本を手に取る人がたくさんいるという事実から、次のような推測が導かれます。それは、勉強をする人としない人がはっきり分かれてきて、その学習格差はどんどん広がっているのだろうということです。学習格差というのは、勉強することによって得られる知識の差や、それによって新たに生じる知的好奇心の差、大げさにいえば人生の質を上げようと努力する意識の差などを意味します。
 「今ある仕事の大半がAIに取って代わられる」と言われ、また外国人労働力が存在感を増している昨今の状況で、将来自分の希望通りの人生を過ごそうと思ったら、やはりそれなりの努力は必要になると思います。勉強しない人が多いのであれば、きちんと勉強する少数派になればその価値は極めて高いと言えるでしょう。つまり、周りと差をつけやすいということです。学習意欲の差をむしろチャンスと捉えて、積極的に勉強する人間になるべきだと思います。

勉強の意義や価値をどう考えるか

 日本人の多くが学習しないという傾向は学生時代から継続していると考えられます。前述の総務省の調査によると、「学生時代に授業やテスト対策以外で、関心を持ったことについて自ら学習した」という人は少なく、ほとんどの人は全く学習していないか、テスト対策のみの学習だったと回答しています。
 つまり日本では、勉強というのはテスト対策として行うものであり、実利的なものという認識が強いのではないでしょうか。それは「テストに出るからやる、出ないからやらない」「テストが終わったらすぐ忘れてしまう」という姿勢につながります。もちろん、重要なテストの直前では、結果を最重要視して費用対効果の高い勉強法を考えるべきですが、そのような限定的な勉強が全てだと誤解している人が多いように感じられます。そうなると、今後入試などの大きな試験がない大学生や社会人の場合、勉強しても何かご褒美がもらえるわけではないので、勉強に対する意欲も薄れてしまうわけです。
 しかし、勉強とは本来そういう狭い意味だけのものではありません。知らなかったことを知る、できなかったことができるようになる、それらの積み重ねで徐々に自分の能力や人格が高まっていく、そういう活動だと思います。
 そもそも新しく何かを知ることは、単純に「楽しい」はずです。そして、実際にいろいろ勉強してみると、小中学校での学習内容は様々な分野の基礎的な知識として非常にバランスよく考えられていたのだということに気付くと思います。「学校で習ったことは世の中で1回も使わない」などというのは全くの的外れな考えです。大人になっても、試験に縛られない自由な勉強を続けましょう。そして、その土台を固めるためにも、学生のうちにしっかり勉強しておきましょう。